【肩】腕神経叢損傷

症状

オートバイ走行中の転倒、スキーなど高速滑走のスポーツでの転倒、機械に腕が巻き込まれた後などで、上肢のしびれ、肩の挙上や肘の屈曲ができなくなったり、時には手指も全く動かなくなったりします。
骨盤位分娩や肩難産で生まれた乳児が肩の挙上や肘の屈曲をしません。

いずれの場合も、腕神経叢のどの部位が、どの程度損傷されるかにより、それぞれの損傷高位に応じた運動麻痺、感覚障害や自律神経障害があらわれます。肩の挙上と肘屈曲ができないものから肩から上肢全体が全く動かないもの、外傷後徐々に軽快するものから全く回復しないものまで、いろいろあります。

原因と病態

腕神経叢は、首の部分の脊髄から出て来る第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経から形成されます(図1)。これらの神経根が脊柱管を出て、鎖骨と第1肋骨の間を通り腋の下に到達するまでの間に神経線維を複雑に入れ替えて、最終的に上肢へ行く正中・尺骨・橈骨・筋皮神経になります。

図1 腕神経叢 図1 腕神経叢

オートバイの転倒事故やスキーなど高速滑走のスポーツでの転倒で、肩と側頭部で着地した際、また、機械に腕を巻き込まれて腕が引き抜かれるような外力が働くと、腕神経叢が引き伸ばされて損傷します。鎖骨上窩の刺し傷(きず)、切り傷、銃で撃たれたときや、鎖骨骨折の骨片が突き刺さったとき、肩関節の脱臼などでも損傷します。
また、お産の際、骨盤位分娩や肩難産の際、児頭か肩が産道の狭窄部にとらえられたまま、分娩操作で頭と肩が引き離されるような力が働いて腕神経叢が伸張され、損傷します。分娩による腕神経叢損傷は分娩麻痺と呼ばれます。

外傷の種類や力の加わり方によって、神経根が脊髄から引き抜けたり(引き抜き損傷)、神経幹から神経朿のレベルで神経が引き伸ばされたり(有連続性損傷)、断裂したりします(図2)。
後述の全型には引き抜き損傷が多く、上位型には神経幹から神経朿レベルでの損傷が多いです。

図2 腕神経叢の損傷の種類 図2 腕神経叢の損傷の種類
(Sugioka, H: Arch Orthop Traumat Surg 1982; 99: 143から引用)

 

 

診断

腕神経叢がある側頸部から鎖骨上窩の腫脹や疼痛があり、上肢の運動麻痺や感覚障害があるときには、腕神経叢損傷の可能性があります。詳しい神経学的診察・検査で、腕神経叢のどの部位が、どの程度損傷されたのか判断します。

損傷高位と範囲により、上位型、下位型、全型に分けられます。
一般成人の腕神経叢損傷では、全型が多く、次いで上位型で、下位型は少ないです。分娩麻痺では上位型が8割を占め、全型は2割と少ないです。

上位型:

肩の挙上、肘の屈曲が不可能となり、肩の回旋、前腕の回外力が低下します。上腕近位外側と前腕外側に感覚障害があります。

下位型:

前腕にある手首・手指の屈筋や手の中の筋(骨間筋、小指球筋)の麻痺により、手指の運動が障害されます。前腕や手の尺側に感覚障害があります。

全型:

肩から手まで上肢全体の運動と感覚が障害されます。
経根の引き抜き損傷があると、ホルネル徴候(眼瞼下垂、眼裂狭小、瞳孔縮小)が見られます。

X線(レントゲン)検査で鎖骨骨折のある症例、肩鎖関節の離開や肩甲骨の外側への転位がある症例では腕神経叢損傷がより重症のことが多いです。このような症例では鎖骨下動脈の不全断裂を合併していて、外傷後に突然大出血する危険があります。

頚部~鎖骨上窩のMRIで、脊髄液の漏出や外傷性髄膜瘤が見られれば神経根の引き抜き損傷である可能性が高いです。

損傷レベルの特定や神経根の引き抜き損傷であるかどうかの判定のため、電気生理学的検査も行なわれます。

予防と治療

自然回復が全く期待出来ない症例では、神経移植術などにより損傷部の再建が可能な症例か、それが不可能な神経根引き抜き損傷か、早急に判断しなければなりません。

手術で腕神経叢を展開して、再建が可能と考えられる症例には神経移植術が、再建が出来ない神経根の引き抜き損傷例症例には肋間神経や副神経の移行術が行なわれます。

神経の回復が望めない症例に対する肩の機能再建術としては、上腕骨と肩甲骨の間の肩関節を固定して、肩甲骨の動きで肩を動かす肩関節固定術、麻痺していない肩周囲の筋を移行する多数筋移行術が行なわれます。肘関節の屈曲機能再建には、大胸筋や広背筋が麻痺していなければ、どちらかの移行術が行われます。上位型で手関節屈筋と手指屈筋が効いていれば、これらの筋の上腕骨内側上顆の起始部を上腕骨遠位前面に移行するスタインドラー手術も行われます。

全型例には、肋間神経や副神経に神経・血管茎付き遊離筋移植を行い、肘屈曲、手指の伸展、屈曲機能の獲得を目指す方法もあります。
※手術については、外部の医療機関をご紹介させて頂きます。